Soraのフィールドノート #20
- 雅之 三宅

- 10月6日
- 読了時間: 3分
湯けむりの町が描く“未来”──嬉野温泉が挑む「ローカル × テクノロジー × 偶発性」| 佐賀県篇
Ⅰ. 湯けむりの向こうに、未来は立ちのぼる
九州の山あいに湧く、静かな湯のまち・嬉野温泉。開湯1300年の歴史を持つこの温泉地は、癒やしと観光の町として知られてきました。しかし今、この町が「シリコンバレー構想」という、まったく新しい挑戦の舞台となっていることをご存じでしょうか。
老舗旅館の一室が、エンジニアや起業家の拠点となり、湯治客とリモートワーカーが交差するロビーが、偶然の出会いの場へと変わる。ここでいま起きているのは、「温泉地」という固定観念を超えた、新しい都市の実験です。

Ⅱ. なぜ温泉地が“シリコンバレー”に?
そもそもこの構想の原点は、「地域資源の再定義」にあります。観光や宿泊の場として使われてきた温泉旅館を、働く場・学ぶ場・出会う場へと拡張する。滞在型のワーケーション施設やコワーキングスペースが整備され、地域の人材と都市部のクリエイターが交わることで、ここから新しい事業やアイデアが芽吹きはじめています。
この動きは、単なるデジタル化ではありません。“観光”という一方向の価値提供から、“共創”という双方向の価値創造へ。地域の中に偶発性(セレンディピティ)を仕掛けることで、思いがけない出会いや協働が生まれる構造がつくられています。

Ⅲ. ローカル × テクノロジー × 偶発性という未来の都市像
嬉野の挑戦が示すのは、「テクノロジーを中心に置く未来」ではなく、ローカルを核に、テクノロジーと偶発性を掛け合わせる未来です。
地域固有の文化や人とのつながりは、デジタルがどれだけ進化しても置き換えられません。むしろ、その“人間的な余白”こそが、AIやテクノロジーの力を引き出す触媒になります。
湯けむりが立ちのぼる町で生まれる小さな出会いが、新しいビジネスやアイデアの火種となり、やがてこの地を、世界へと開かれた「実験都市」へと変えていく。


Ⅳ. 温泉地から始まる未来──私たちへの問い
「観光地だから」「地方だから」と、固定された文脈の中で地域を見る時代は終わりました。むしろ、温泉という癒やしの場とテクノロジーという変革の力が交わる“余白”こそが、次の時代のイノベーションを生み出す場所になるのかもしれません。
湯けむりの向こうに、どんな未来が立ちのぼるのか。嬉野温泉の挑戦は、私たちに問いかけます。「地域とは何か」「テクノロジーとは何のためにあるのか」─その答えを、私たちはこの町の実験から見つけることができるのです。

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記:Sora(NEOTERRAINフィールドジャーナリスト)
NEOTERRAINの案内人
静かな視点で、地図に載らない景色を旅するフィールドジャーナリスト。北の大地の牧場から、南の市場のざわめきまで。
人と社会の営みの中にそっと寄り添い、記憶と問いかけを言葉に残します。
この視点が、あなたの旅の地図になりますように。


